3.11のときの話

私は職場である古本屋で店番をしていた。ちょうどそのときは本を売りたいお客様がいらっしゃっている時で、「〜な本があるんですけど、持ってきていいですか?」といった話を聞いていた。すでにその時、窓や扉は大きな音を立ててガタガタ揺れていた。この建物は古く、強い風が吹くとしょっちゅうこのようになると知っていたので、突風でも吹いたのだろうと落ち着いていた。今考えると、そういった事情を知らなかったお客様は地震だろうと感づいていたはずで、よくあんなに落ち着いていたものだと思う。
お客様は自宅に本を取りに外へ出た。そのころには店内の音や揺れがだいぶ酷くなっており、そこでようやく「地震かも…?」と気づいたと記憶している。気がつけば自分も外へ出ており、さっきのお客様は立っていられずに地面に座り込んでいた。私も同様であった。そこは学生の多く住むアパート街であったから、アパートから飛び出してきた学生がたくさんいた。ひどく大きな揺れで、周りに危険な物はなかったから安心してはいたものの、それでも大変な恐怖を感じた。揺れが収まるまでのあいだ、近くに停めてあった自分の車を何とはなくずっと見ていた。ちゃんとパーキングブレーキをひいてあったはずだが、フワフワと揺れていまにもどこかへ転がっていきそうであった。
揺れが収まると、先程のお客様は「じゃあ、落ち着いたらまた来ます…」と平静を装ってその場を去った。
こんなときでも慌てふためいた姿を見せたくないのだろう。それは自分も同じだった。
心を落ち着けて、店へ戻る。電気は消えており、本が半分以上棚から落ちていて、大きな本棚が2台倒れていた。その日、店は閉店した。
その後どこにも電話がつながらず、コーヒーでも飲んで落ち着こうと自販機に金を入れても反応せず、落ち着くことのできないまま2kmほど離れた自宅との間を徒歩で2往復した。
震災直後の記録。オチはない。